~ガンチ登場~

先日、神奈川のお客様より訓練のご依頼をいただいた。問題行動は“本気咬み”である。

いくつかのしつけ教室に通ったがどこのトレーナーも“褒めるしつけ”“叱らないしつけ”“ヨーロッパでは~”云々を口にするだけで犬に触りもしない・・・。「やり方教えますから自分でやってください」と言うだけ・・・・。

今まで何度かそういった類の教室に通ったお客様からご依頼を受けたことがある。“本気咬み”が問題で通っているのにそれには触れずどうっでもいい話ばかりをされるそうである。「ヨーロッパはあーだ、こーだ」「叱るのは犬の権利を無視している」「ストレスを無くせば問題行動はなくなる!」など飼い主様の苦悶はそっちのけ・・・。

終いには「訓練士に訓練してもらうなんて責任放棄だ」「訓練所なんかに頼んでも無駄だ」と・・・。

「それはどうかな?親分は口だけじゃねえぞ。本気咬みの犬にビクついて手も足もでねえメルヘンチックのあんたらとは違う 」(ガンチ吠える!!)

誰?ガンチ?

ヨーロッパの訓練と日本の訓練が違うと思っているトレーナーは多い。私にしてみればたいした違いはなく、なぜヨーロッパのしつけ方とかストレスをかけない訓練にそんなに大興奮しているのか分からない。

どうやらなんとかシグナルを出すからすごいとか、命令しなくても犬が勝手に考えるとかが理由らしい。

シグナルの意味を分かっていて言ってるのだろうか?シグナルの意味って合図や指示の事ではなかろうか?

なんとかシグナルを出して人間の望む行動に導いたら結局それは命令をかけたこととほとんど一緒なのではなかろうか?無視をして考えさせることも多いみたいだが無視をするという行為そのものが指示となっていることに気づかないで「わーすごいすごい」と拍手喝采しているところがアマチュアトレーナーらしい・・・。

何より“無視”の多様によりトレーニングした場合、平常時には事なきをえるが、緊急時には役に立たない。緊急時には指示に即座に従うようにトレーニングしておかなければ人犬の生命を脅かしかねない。

“ストレスをかけないやさしいしつけ“云々を口にしているトレーナーはこの辺の危機意識が甘いのと犬嫌いの人の事を一切考えていない自己中心的な指導内容が目立つ。その事については後日触れたいと思う。

どうやら“脱ストレス・叱らない”派のトレーナーは命令口調がお好きではないらしい。「イケナイ!」「スワレ!」「フセ!」「マテ!」などの命令口調が犬を奴隷か下僕のように扱っている感じがして嫌なのであろう。

いきなりだがここで一つ問題を出そう。

ゴードンさんがテーブルについて食事をしています。愛犬のサリーが足に手をかけ「私にも頂戴!」と催促しています。ヨーロッパ流(日本でも同じだが)では無視をします。手をかけても無視を繰り返して、犬が諦めてそばに来ても手をかけなかったらおやつなどの褒美をあげるそうです。サリーはそばに来ても手をかけて催促しなくなりました。待っていればおやつが出てくることがわかったからです。これは犬がすぐに諦める性格で理解力の高い犬の場合の話・・・。

今度はガンチがきました。ゴードンさんは同じように無視をしてみました。

さてガンチはどうしたでしょう?

① すぐに諦めた ② 吠えた  ③ ズボンが破れるんじゃないかと思うほど足を引っ掻いた 

答えは③です。なぜならガンチだからです。

名前からしてサリーはおとなしそう、ガンチは頑固そう。大方の予想通り答えは③です。そうなのです。犬の性格によって同じように無視をしても結果が大きく異なるのです。たまたまおとなしいサリーに通用するナイスなやり方を目にしたからと言ってそれがすべてではないのです。たしかに叱ることも強い口調で言うこともせずに犬が諦め、人の望む行為をとってくれればそれに越したことはありません。

ところがガンチの性格は仔犬の頃から半端じゃなく頑固です。だからガンチと名付けられたのです。ガンチはへこたれません。諦めの悪い犬なのです。ひたすらゴードンさんの足を引っ掻き続けました。

「早くよこせやーーーーっ!」

ゴードンさんは痛いのを我慢して無視し続けました。 「ここで叱ってはダメだ。ヨーロッパ流は叱らないのだ・・・負けるなゴードン!」(ゴードンさんの心の叫び)

そんなのは無駄なことです。ガンチに無視は通用しないのです。目的を達成するまでガンチは諦めない性格なのです。ガンチは足に手をかければ何かもらえるのを知っています。かけても出てこないから今度は引っ掻き始めたのです。

あまりの痛さにゴードンさんは根をあげ、おやつをあげてしまいました。ガンチの勝利です。

ちなみにゴードンさんは隣の家のご主人です。ガンチの飼い主コマンダーさんが洗車中に勝手に上がり込んだのでした。

そう・・・“脱ストレス・叱らない”派のトレーナーは一部の犬にしか通用しないやり方を吹聴し、最も理想の方法だと言っています。私も部分的には理想だと思います。部分的には・・・。

時々TVやユーチューブでしつけ方を紹介していますが出てくる犬は問題行動犬などではなく優等生ばかり・・・。ガンチはそんなもんじゃないんですよ。「さあ、そういう犬をどうするか?」となった時に結局“叱らない訓練”“ストレスをかけないしつけ”などひとっつも役に立たないのです。おとなしい優等生の話をされても困るのです。上手く行った場合の話だけをされても困るのです。

無視は有効手段の一つである。ただそれは諦めのいい犬、理解力の高い犬の場合。“叱らないしつけ”を推奨するトレーナーの話にはガンチのようなとんでもない犬が一切出てこないんですよ。みーんなおとなしい犬ばかり。

文面を見ているだけでも問題のある犬をトレーニングをしているとはとても思えませんね。なぜならそのやり方で効果が期待できる犬のタイプには限りがあることを嫌と言うほど知っているからである。動画を見ても「あーそのやり方じゃガンチは無理だね。それをやる前に転んで大けがしちゃうよ」とか「あーそれじゃ、手が血だらけだよ」なんて実況がついつい入ってしまう。

このコーナーでも常々言っていることだが私はどちら派でもない。犬のしつけは何とか式がいいとか、ヨーロッパはこういうやり方だとか、ストレスを無くせば問題行動はなくなるなんて言ってるうちは犬を選り好みしてることと技術の狭さを露呈しているようなもの・・・。本当に半端じゃない犬訓練したことある人は「簡単にしつけできますよ」とか「こうすれば絶対変わる」とか言わないですもの・・・。

中にはほとんど褒めるだけで訓練が入っていく犬もいるし、ガッツリ叱らなければならない犬もいるし、猛獣のような犬に命がけで向き合わなければならない時もある。 犬にも半端じゃないのいますから・・・・。

訓練に何とか式などないのである。犬に合わせて人が望んだ行為に導けるまであの手この手を尽くすだけである・・・。それが時には体罰という手段も入る、それだけのことである。そうしなければガンチのような犬は止まらないし諦めもしない。

「体罰反対!」「ストレスを無くせば問題行動はなくなる!」「しつけを他人に任せるのは責任放棄だ!」

そう叫ぶ、あなた方の理論で手に負えず、飼い主は見放されたんですぞ。 同じ事を繰り返す馬鹿がどこにいる。なあガンチ・・・。

ガンチ:このコーナーに出てくるフィクション犬であり私の心の叫びとリンクしている。ちょっとガラが悪いが気にしなくていい。ガンチの行動は過去に出会った半端じゃない犬たちをモデルにしています。
これから時々登場しますのでどうぞよろしく!

他の登場人物   
 
 コマンダーさん:元グリーンベレーの隠居のおじいさんでガンチの飼い主
 ゴードンさん:コマンダー家の隣に住むフリーライター   
 サリー:ゴードンさんの愛犬

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