~ああ小力~

まずはこの写真をご覧頂きたい。
名前はトゥインクル小力(♂)。上が訓練前(Before)の小力、下が訓練後(After)の小力である。

訓練前の小力は目が吊り上がり、気の強さが滲み出ていた。訓練後の小力はとても柔和で優しいオーラを放つ表情になった。

目は口ほどにものを言うとはまさにこのことで彼の心理状態がすべて目に現れているのである。

この写真の頃は全てが自分の思い通りになる時代の頃。

次の写真の頃は人や犬を受け入れるおおらかな精神状態の頃。

目だけではない。入所した頃は常に緊張していて口を噤んでいることが多かったが訓練が進むにつれリラックスしてる時間が多くなり口を軽く開くことも多くなった。

ある相談先では「怒らせないように飼ってください」と言われ、またある相談先では「更正は無理でしょうから精神安定剤を処方してくれる獣医を紹介します」などと言われ完全に気違い扱いされた小力・・・。確かに咬むことは咬んだが軽度の咬癖であり、更正できない程の犬ではないことは最初の相談で犬を見るまでもなくすぐにわかった。

セカンドオピニオンというやつである。
他の訓練士には無理だと感じても私には当てはまらないことの方が多い。小力に関しては100%の自信を持って「改善する」と答えた気がする。いや・・・多少保険をきかせた返答をしたかもしれない・・・。

変化までの期間は約7ヶ月。ではこの期間に小力に何があったのか?全てを語ろう。

その前に・・・

“権勢症候群”という言葉をご存じであろうか?私のコーナーではたびたび登場してくる言葉である。

簡単にいうと・・・

大人になってきた犬が今まで好き勝手を許してくれてきた飼い主にあーしろこーしろ言われて、うっとうしくなってきて不満をぶちまける態度のこと。

人間の子供で言うところの反抗期のようなものにあたる。またはだらしのない上司に不満を持った部下のふてくされた態度みたいなものと考えればわかりやすいかも知れない。

人間の場合は本音と建て前というものがありますから不満は持ってても極力表に出さないように務める。

ところが犬は違う。気に入らなければ拒絶するし、吠えるし、逃げるし、酷い時には咬みにくる。そういった意味でなんとも素直な生き物だと思う。

ただこの“権勢症候群”も現代の動物行動学者たちの間では「そんなものはない」と言われてる。私は“ある派”。

理由は簡単。

“結果が全てを物語っている”ことと“動物行動学だけでは説明のつかない”ことが多々あるからである。

知らないのならいざしらず知っているのに指示に従わない、今までできていたのに“段々”従わなくなる、月齢を重ねる毎に反抗的な態度が顕著になるというふうに月齢の変化に合わせて行動が変化していく。その結果飼い主が犬をコントロール仕切れなくなるという事態になる。

犬が好き勝手に動き人間をてこずらせるという結果そのものを表したものが“権勢症候群”という表現なのである。

ある動物行動学者は犬は仔犬時代に人間の強さと存在の大きさを身にしみて知っているから月齢が立つにつれ自分が上に立とうなんて思わないと断言する。

残念だが犬は感謝することも尊敬することもしない。感謝して人間の愛情に報いようとか人間の望む行為に応えようなんて思わない。あるのは自分にとって利益か不利益か、ただ純粋にそれだけである。それが派生して喜んだり、怖がったり、うっとうしそうに見えたり、怒って見えたりするだけである。

どうすれば利益を得られるか?その答えが従う、吠えない、咬まないであり、その結果人を好きになっていく。不利益をどのようにすれば排除・回避できるか?その答えが従わない、吠える、咬む・・・その結果人間を疎ましく思うようになる。それだけである。その行為と結果が存在する。それを“権勢症候群”と名付けただけのことであり、ゆえに存在することになる。

少し前置きが長くなった。

まさに小力はこの“権勢症候群”のお手本のような犬であった。

飼い主様は飼い主の鏡のようなご夫婦で幼少の頃より正しく育てるべくあの手この手で小力を育てようと奮迅した。トゥインクル小力の更正までの道のりをご覧いただければお分かりになると思います。気になるのは犬との接触が少なかったかなという点だけであとは特筆すべき社会化不足は見あたらない。

また親元から離れるのが45日と比較的早いほうだったが生後6ヶ月の頃の状況を見てもそれが原因とは考えにくい。仮にそうだとしても攻撃的に出ることよりも逃避行動に出ることの方が多く、小力の場合は“怖くて咬む目”ではなく明らかに“気に入らなくて咬む目”であった。

咬む行為が出始めたのは生後7~8ヶ月の頃。犬との接触不足と親元から離れたのが原因ならばもっと早くその症状が出ていてもおかしくない。ゆえに“権勢症候群”の可能性が高い。

原因は特定はできなかったが明らかに敵意を感じたのでそれ以上の詮索は無意味。
本気で咬みにくる以上、こちらも本気で向き合ってあげなくてはならない。ガッツリ叱ってあげることで思い上がった態度に“喝”

入所初日に“喝”を入れられ、一時おとなしくなったが、しばらくして再度の挑戦を受けたので再び“喝”。犬は経験でしか物事を学ばないのでこちらが何もしなければ必ずまた同じ事を繰り返す。やはり好き勝手を通したいらしいのだがそうは問屋が卸さない。

どこの世界に“あなたを殴りたいんです”と言われて“はいどうぞ”という人間がいる。ダメなものはダメという態度を明らかにすることにより強い信頼関係と主従関係を結ぶことも出来る。愛のある“喝”は科学では証明できない神秘の力を秘めているのである。

日常の世話の中で“咬んで拒絶”“した場合は即“喝”、それと並行して服従訓練(オスワリ、フセ、アトヘ、マテ、ハウス、コイなど)を施し、指示に従うことを繰り返す。その中で“咬んで拒絶”したら、やっぱり“喝”。連戦連敗で咬むことの無意味さを味わうと共に服従訓練の中で指示に従うことの喜びも覚えていく。

不利益を学び、利益を学ぶ。その過程で私の大いなる“愛”を感じ取ったのか訓練開始4ヶ月を過ぎた頃から目つきが完全に変わり、柔和な目つきになった。その後も反復練習の中で小力が自分の取るべき行為を再確認しながら時が流れ、みるみる荒んだ心が洗われ下の写真のような目に変わったのです。

ガッツリ叱って厳しい訓練をしただけの犬が下の写真のような目になると思いますか?
体罰を与えられただけの犬や強制のみの訓練を受けた犬は目がうつろでおどおどした目になると言われています。

ガッツリ叱った犬ほどフォローが大事!犬が態度を改めた時、こちらの望みを受け入れた時には心から褒めなくてはならない。オーバーに褒める必要などない。ただただ心から褒めればそれでよい。どんなにオーバーに褒めても心がこもっていなければ、しらじらしいだけで犬のハートには届かない・・・・・。

たとえ厳しく訓練したとしてもその裏に深い愛情と確固たる信念、卓越した技術があれば多くの犬が小力のように目がやさしくなるのである。逆に厳しい訓練を避け、腫れ物を触るように訓練した犬は結局精神的にタフになっていないので何かのきっかけに元に戻ることが多い。

「叱る時は阿修羅の如く、褒める時は菩薩様のように慈愛を込めて」・・・・うちの見習い達の耳にタコができるほど言っている言葉である。

権勢症候群などない、体罰絶対反対!社会化万歳!NOストレス!と叫ぶだけでは犬と本気で向き合ったことにはならない。腫れ物を触るように扱い、現実から目を背けるように薬物を使い、手に負えなければ気違い扱いするような輩に何ができよう・・。

ぶつかりあって分かり合えることもある・・・。

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