私には抱きしめたかったわんこがいた。
とにかく抱きしめたかった。
片思いは初めてではないが今回はずいぶん長い時間に思えた。
たった一つでいい・・・。ほんの少しでもいい・・・。
そのわんこと心を通わしたかった。
けれど彼はそれを望んでいなかった・・・
ありとあらゆる事をした。 でも彼と心を通わすすべをとうとう見つけることが出来なかった。
私にはデニスという愛犬がいる。ジャーマンシェパードの男の子である。
私は彼を毎日のように抱きしめる。彼はおとなしくそれを受け入れる。
「あの子にもこうしたかった・・・」
デニスを抱きしめるたびにそう思う。
わんこの異変に気づいたのはいつだったろう。
気のせいか顔の右側が腫れている。腫れ方がおかしい・・・
レントゲンを撮る・・
手術をする・・・
やせ細っていく・・・・
なにもできなかった・・・・・
寒い寒い日だった。
彼は静かに逝った。
翌る日も寒かった。 四角い部屋の中で彼は姿を変えていく。ゆっくりと静かに揺れる炎に包まれて・・・
小さな姿になって再会した。 ひとつひとつ丁寧に、そしてやさしく小さな小さなハウスに入れてあげる。
おじぎをして四角い部屋を後にする。
白い袋に包まれた小さなハウスが今、胸の前にある。
「お家に帰ろう」
ぎゅうっ・・・ 今ようやく願いが叶った。
絶滅危惧種:中村信哉は絶滅の危機に瀕しながらも今日も咬みつくわんこを見守る