~原点回帰~

見習いの頃に“本気咬みの咬癖犬”を訓練したことはない。
今にして思えば問題行動のある犬を訓練したことがあるのかどうかさえ甚だ疑問である。

私がこの世界に入ったのは1989年、バブルの真っ直中である。犬を飼っている人間なら何の問題がなくても訓練所に入所させ芸を教えこむ時代であったように思われる。

小型犬も訓練したことはなかった。一番小さい犬でビーグルであり、あとはほとんど大型犬であった。

引っ張らない、飛びつかない、落ちついて待つなどの服従訓練を施し、訓練試験を受けたり、競技会に出
したり、警察犬を育成したりする、なんてことのない日常だった。24年も前の話である。

見習いの頃に担当した頭数は124頭、一頭として本気で咬む犬などいなかった。記憶にあるのは別の見習が担当していたシベリアンハスキーがかなり危なかったが給餌やブラッシングなどの世話はなんとかできた。

今うちにいる“本気咬みの咬癖犬”に比べればかわいいものであったと回想する。

”本気咬みの咬癖犬”というものを明確に意識し始めたのは独立後のことである。

咬癖犬の訓練を取り扱い始めた頃はただただ無我夢中だった。とにかく“痛い”“恐い”“割に合わない”の三拍子だった。それでも「なんとかしたい」その一念から頑張ることができた。幸いなことに武術の経験があり、気力、胆力、精神力がそこそこ養われており、心が折れることはなかった。

「どうすれば咬まれずに犬に咬むことの無意味さを理解させることができるのか?」
「どうすれば飼い主との関係を再構築できるのか?」

咬まれては反省し、また咬まれては反省し、あーでもない、こーでもない・・・試行錯誤の連続だった。

年を追う毎に“痛い”“恐い”は変わらないが“割に合わない”が“割に合う”ようになってきた。

オーナー様の嘆き悲しむ姿を素知らぬ顔で見ていたわんこが徐々にオーナー様と見つめ合う間柄に変わっていくことにどんな訓練を成し遂げた時よりも満足感を覚えている自分がいることに気づいた。こんなことを言うと嫌味に聞こえるかも知れないが全日本で2回3席を獲ったことがあるがそれよりもはるかに嬉しいのである。私にとって競技会は遊びの延長でしかない。しかし“オーナー様が飼い犬に咬まれる”という事態はただごとではない。どちらに重点を置くべきかと聞かれれば迷わず後者と答える。

HPを起ちあげ関東全域から咬癖犬の訓練の問い合わせが殺到した時にはビックリした。集客効果に驚いたのではなく「日本には本気咬みの咬癖犬を訓練できる訓練士がいない」ということにである。多い年には年間29頭もの“本気咬みの咬癖犬”を取り扱った。毎日が戦争だった。

「何を言っているの!私を侮辱する気!」「訓練はちゃんと入っている。飼い主が甘やかすからまた咬むんだ!」と憤ったところで無駄である。

結果が出ているのである。オーナー様がNGを出した以上どんなに憤ったところでそれは覆らないのである。それを認めたくないならオーナー様の評価を勝ち取らなくてはならないのである。

「○○先生のおかげで咬まなくなった」という評価を・・・。

私が担当したほとんどの“本気咬みの咬癖犬”はよその訓練士が取り扱ったものの成果を得られなかったわんこや問い合わせで門前払いをくらったわんこたちである。よそでたらい回しにされオーナー様が自暴自棄になる前に私のところへきたわんこはラッキーな方である。無駄なお金も時間も費やしてはいないのだから・・・。

ほとんどが栃木県外からのわんこで近くの訓練所のしつけ教室に通ったが効果無し。一ヶ月預託でその後はしつけ教室・・・一切効果無し。半年預託で全然効果なし。5箇所の訓練所にお願いしてもどこも効果無し。歯削り、去勢、薬物治療、怒らせるな、触るな、人と会わせるな、驚かせるような音を聞かせるな、“歯を削ったら訓練します”と言う訓練士・・・。講釈をたれるだけで犬に触りもしないカウンセラー、メダカを捕まえてホオジロザメを捕まえたかのような大げさな話をする動物行動学者・・・・。ついには”咬む犬も直るなんて言う訓練士はうそつきだ”と言う訓練士まで登場。それが日本の現状である。世界は知らないが五十歩百歩といったところだろう。

もういい・・・やりたくないならやらなくていい。私がやるから余計なことも言わず余計なこともせず自分にできることだけをしていてほしい。

私が“本気咬みの咬癖犬”を喜んで訓練する理由をここに記す

一、私は訓練士であり、それが当たり前としか思っていないから。

二、訓練技術の粋を集めてようやく成し得る究極の訓練だから。

三、国内に“本気咬みの咬癖犬”を訓練できる訓練士がいないから。

四、「咬む犬は直らない」と言われているがかなり高い割合で更正する
  ことが実証できたから。実証できたらやるしかないでしょ。

五、迎え入れたあの頃に戻してあげたいから・・・。

私は訓練士である前に一人の愛犬家である。自分のかわいがっていたわんこに咬まれたら悲しいし悔しいし、なんとかしようとしても近所のオヤジに頼むわけにもいくまい。そうなったら訓練士に何とかして欲しいと思うだろう。ところがその訓練士が“本気咬みの咬癖犬”を訓練できない存在なのだと言うことがHPを立ち上げて以来この8年間で疑う余地のない事実だと言うことがハッキリした。そしてあろうことかその事実を訓練士が受け入れてしまっているということに愕然とした。「咬む犬はやりません」ってさらっと言いますからね・・・。

誠に勝手ながら本日より国内唯一の“純然たる訓練技術により本気咬みの咬癖犬を矯正できる訓練士”を名乗ることとする。
長いのでもっと“訓練士”ではないハッキリと訓練士と区別した名称を思案中である。咬癖犬を訓練できない訓練士と一緒くたにされては心外である。何より咬まれて困っている飼い主様がなんにもしてくれない訓練士に行き当たることがないように「“本気で咬む犬”は中村先生に限る!」となるようなシステムや道案内を作り上げたい。

去勢・歯削り・薬物の使用などは一切行わず純然たる“誉めと罰”を駆使した訓練方法により矯正に取り組む。

異議のある方は当訓練所にご招待いたすこととしよう。いや・・・・自腹で見に来ていただくとしよう。“百聞は一見にしかず”・・・・俗説を覆す技術をとくとご覧に入れよう。ほとんどの咬癖犬は入所後3ヶ月頃と6ヶ月~8ヶ月経つ頃に変化が出始める頃なのでその頃に来ていただいて入所時と見比べていただいたり、オーナー様との面会時に立ち合ってその驚きの評価を目の当たりにしてみるといい。なんなら卒業まで一部始終を見てみるのもいいだろう。今ちょうど見習の部屋が空いている・・・。

今後は警察犬・競技会犬の育成を縮小していき、5年後いや3年後をメドに国内初の“本気咬みの咬癖犬矯正施設”に移行する計画である。他の者で事足りることは他の者たちに任せて私は私にしかできない仕事をメインワークとすることとしよう。

もちろん一般家庭犬の訓練は継続することとする。この一般家庭犬の訓練も適当にやられてしまえば本気咬みの咬癖犬を作り出す要因になりかねない。

無責任な飼い主が集まってくる恐れがあるのでボランティアでやる気はない・・・頂くものはきっちりいただく。ただし料金体制も抜本的な改革を思案中である。もちろんガチンコで咬癖犬の更正に取り組むし、できなければ責任はとる。これまでもそうしてきた。

しかしいつかは咬癖犬の訓練に必要な気力も体力も不十分となるだろう。だが気力・体力が落ちても“技と知恵”は進化していく・・・と思う。そしてなにより“勘と経験”が培われていく・・・筈である。宮本武蔵も晩年は刀を抜くことなく試合で相手をひれ伏せさせたという。無刀取りの創始者:上泉伊勢守信綱も何も持たず真剣を持った相手と立ち合ったという。それを目指していくとしよう。

おっと・・・この話はオフレコである、まだワイフには言っていない。角が生えたら訓練どころではない・・・。

絶滅危惧種:中村信哉は絶滅の危機に瀕しながらもさらに過酷な環境へと足を踏み入れる。

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