こんにちは。“絶滅危惧種”の中村です。
訓練士というものは批判の矢面に立たされる宿命にあるらしい。
動物行動学からいうと咬む原因の90%以上が恐怖や痛みによるものであるという報告があるそうです。また重度の咬みつきは、子犬の時に甘咬みをさせなかったり、犬同士のかかわりが少なかったりという社会性の不足や、間違ったトレーニングが原因であるらしい。
私もそう思う。
だが恐怖や痛みが原因ではない場合どうするの?
恐怖による咬癖はエサを使用して直すのが最も効果が期待できるとも言われている。
私もそう思う。
だがエサに見向きもしない場合はどうするの?エサも目に入らないほど恐怖におののく犬だったらどうするの?
最新の行動学をもってすれば犬を叱ることなく問題行動を改善することができる、“ほとんど”の犬が簡単に咬まないようになるそうである。
つまり体罰なんか使ってる時点で時代遅れだし、間違ってると・・・・
私はそうは思わない。
なぜなら私は最新と言われる動物行動学による咬癖犬の対処法はすでに20年も前から実践し、たくさんのわんこを更正させている。だがそれでも改善できなかった犬たち、さらに近年では最新の訓練を推奨する方々に訓練されたにもかかわらず本気咬みをするようになった犬たち、厳しい訓練を否定する訓練士から甘やかし訓練を受けてガッツリ咬む犬ようになった犬たちを創意工夫の末、飼い主の下に戻しているからである。なにより“ほとんど”以外の犬の話をうやむやにして耳に聞こえの良い話ばかりされても困るのである。
それにしても最新の動物行動学は危機管理に欠けているように思われる。
例えば・・・
恐怖による咬癖の場合、よく用いられる方法として「大丈夫だよ大丈夫だよ怖くない怖くない」と言いながら安心させて、その状況が犬に「怖くない」ものだと教え込み、自己防衛本能を発動させないようにトレーニングしていくもの。腫れ物を触るように少しずつ少しずつ免疫をつけさせていく、いわゆる“慣らしトレーニング”とエサを利用した“だましトレーニング”。
恐怖と痛みが原因による咬癖なら間違いではない。だが大正解でもない。残念だが自己防衛本能は些細なことで発動されるのである。上辺だけ慣れたように見えてもそんなやり方ではいざという時に何の役にも立たないことを私は知っている。それが本能というものだからである。本能を甘く見てはいけない。些細なことでは発動されないようにトレーニングしなくてはならないのである。
まだまだ動物行動学が推奨する方法では対処できない例はある。
- 5人家族の1人には咬むことをしないが、他の4人には唸る、咬む
- 奥様には咬まないが旦那様には咬む(逆もあり)
- 恐怖心を抱いているという素振りがまったく見えないが体を触ると唸る、咬む
- 飼い主には咬まないが他人に咬む
- やさしくやさしく触るのに咬む
- 誉めてしつける訓練を施したのに咬む
- 一度も叱ったことも体罰を与えたこともないのに咬む
- オスワリ、フセ、マテ、ヒールなどの指示に完璧なほどに従うのに咬む
- 咬むことで全てを拒絶する
これらの犬の咬む原因がなんだかわかりますか?
「気に入らないから・・・・」
ただそれだけなのです。ただ単純にそれだけなのです。怖くもない痛くもない、ただ咬みつく対象が気に入らないのです。
それをわかっていながらそれについては触れず、やれ体罰は意味がないだの、誉めてしつければ咬まないだの、簡単に直りますだの、厳しい訓練を否定するだけで残りの10%を救う方法は一切述べていないんですよね。
権勢症候群など存在しない、犬は人の上に立とうなんて思っていない云々と言うだけ。結果的に人間から見て犬が威張りちらしてたらそれは権勢症候群と呼べるし、人間の指示に従わなければ上に立ったのと同じである。
どうやら動物行動学を勉強されている方々は支配するとか上下関係という言葉が嫌いらしい。
穿った見方かも知れないがまるで現代日本の教育現場を彷彿とさせる。体罰はダメ、徒競走ではゴール前で手をつないでみんなでゴール、お遊戯会の主役の孫悟空が何人もいる。聞こえの言い平等を振りかざし、厳しい行為は人権無視呼ばわり。常軌を逸脱した行為は論外だが賞罰と不平等を経験することによって人は我慢することを覚え、相手の気持ちを考えることを覚え、譲歩することを覚える。痛みを経験し、悔しさを経験して成長していく。犬だって根本的には同じである。
必ずしも最初の飼い主と一生を共にするとも限らない。一生心地よい環境が続くとも限らない。そうあって欲しいことを願うが何が起きても微動だにしない精神力と度胸と知恵を犬につけてあげるのが飼い主の努めであり訓練士の務めである。それが時には体罰であったり我慢させることであったり、本気で叱ることなのである。“気に入らない”が原因で本気咬みをするようになった犬に関しては特にそう思う。もちろん常軌を逸脱しないことは言うまでもない。
動物行動学も褒めてしつける訓練も否定はしない、でもそれがすべてではない。動物行動学や褒めてしつけるだけの訓練をすべて肯定してしまったらそれに適合しない犬は更正不能ということになってしまう。西洋医学がダメでも東洋医学で直ることもある。この方法が一番だという前に広い視野でものを考えることをしなくてはならない。
本当の恐怖をくぐり抜けた者は机上の空論だけでは救える犬に限りがあることを痛いほどを知っている。
少なくとも“ほとんど”以外の犬の話をうやむやにしているようでは本気咬みの咬癖犬について何が正しいなどと論ずるべきではない・・・・。
日本人は最新とかストレスをかけないなどの耳に聞こえの良い響きが好きなのだから・・・
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