この手記は10件の専門家にたらい回しにされ、北栃木に辿り着いた柴犬コロさんのオーナー様が卒業に際して記したものである。原文をそのまま転記しています。ねつ造無しのオーナー様の声をご覧ください。
中村
うちのコロは「本気咬み」
「それじゃあ、お預かりしますね!着いたら連絡いたします!」
これから4時間近く運転するのに、中村先生はウキウキとした様子で私たちを振り返りました。
ワンボックスには、我が家の愛犬「コロ」(3歳)
「本気咬み」の柴犬(オス)で、家族を合わせて十数回咬んでいます。
とてもかわいいのに、いきなり咬む、唸って咬む、前置きなしに咬む。
どうにかしようと、生後半年で咬み始めてから、「ほめて躾ける」をモットーに、お世話になったトレーナーさんは十件を数えました。
それなのに悪化の一途を辿るばかり。
いつもいつでも「咬む 柴犬」「柴犬 躾」などでググっていましたが、ある時、顔を咬まれたのをきっかけに、ついに断崖絶壁にぶち当たり、飼育方針を変えざるを得なくなりました。
アマゾンで買えるだけの「犬」「動物」についての本を読み、高名な先生のセミナーにも足を運び、努力に努力を重ねてきたのに・・・・
「いい飼い主は絶対にしない!」と言われていた「預託訓練」を視野に入れ、ググること数時間。
何件かは断られ、何件かはこちらで辞退し、ふとした拍子にグーグルの検索画面の一番上に「北栃木警察犬・愛犬訓練所」の文字を発見しました。
早速読んでみると、「どんな犬でも断らない」だけでなく、関東なら「送迎あり」だけでなく「送迎無料」!
ものすごくびっくりして西日の差し込む室内で、HPを熟読しました。
「この『中村先生』って、何者?」
一通りHPを読み終わった私は「信じられないものを見た」気持ちでいっぱいでした。
その直前に、私の住む地域では有名な訓練士の方に「咬む犬は治らないから、うちは引き受けない。気を付けて飼いなさい」と断られ、「それはそうだろう。この訓練士さんのおっしゃることはもっともだ。飼い主さえも手におえないのだから、誰だって引き受けたくないはずだ。でも、どうしたらいいのだろう。」と泣いたばかりだったので、驚きは余計でした。
中村先生が「藁」だとはもちろん決して思ってはいませんが、「溺れる者は藁をもすがる」の例え通り、ダメ元でお電話しました。
「北栃木愛犬訓練所です。」と名乗って出られた男性は、「すみません。咬む柴犬なのですが、訓練をお願いできますか?」との申し出に「できますよ!(間髪おかず)何歳ですか?」とおっしゃるではありませんか!
「3歳です。」
その後は矢継ぎ早に質問が飛び、わずか数分の間に「二日後ならお迎えに行けますが、どうしますか?」とのお申し出まで。
これは後日伺ったことですが、話を聞くうちに並々ならぬ切羽詰まった状況にいた私たちを一刻も早レスキューしなければならない!と思われたそうです。
今までお電話した訓練所さんは、訓練所の代表番号に掛けても、全く要領を得ないやり取りが続き、話のわかる人に代わってもらうまでで数分待たされることもザラでした。
あまりにスピーディーな展開でした。
でも、断崖絶壁に指一本でぶら下がっていた私たちにとっては、この訓練が吉と出るか凶と出るかはお願いしてみないとわからないし、私たちだけでできることはもうないのだ!と、全身ぶるぶる震えながら(誇張しているのではなく、本当に震えていました)、預託訓練をお願いしました。
当日現れた先生は、HPに載っている通りの方でしたが、若干いかめしい(笑)雰囲気の人物紹介にあるまじき「軽快さ」で、ご挨拶されました。
礼儀正しい中にも、「『本気咬みの犬』を迎えに来られて、ものすごく嬉しい」感が隠し切れないどころか、全身にみなぎっておられました。
まずはリード一本で、ゲージの中でウーウー唸っているコロを捕獲です。
私たちが震え上がるような唸り声なのに、冷静に観察され、あっという間にリードを付けて車に連れて行きました。
てっきりコロが飛びかかって先生に刃向うものと半泣きでいた家族を尻目に、硬直したまま先生に引っ張られていくコロ。
「僕は行きたくないよ!僕のおうちはここだよ!助けて!」
人間だったらそんな風に言うでしょうから、てっきりコロがそんな風に私たちに助けを求めると思っていましたが、その時のコロの脳内は「どうやったら、一番いい状況に自分をおけるだろうか?」という動物独特の「損得計算」が激しくなされていて、家族なんて目に入っていませんでした。
「動物心理学の本に書いてあった通りだ」と、ふと思ったのを覚えています。
その後先生は、私たちに「コロがどんな風に育ったか」「どんな訓練を受けたか」などを細かく聞かれ、訓練の説明などをなさり、コロが車に慣れた頃合いを見計らって、軽快に颯爽と帰って行かれました。
「『本気咬みの柴犬』が待ってると思ったら、車で四時間くらいなんてどうってことないですよ。」「いや~、どんな『本気咬み』か本当に楽しみで~」
当日の先生は何回もこんなフレーズを口にされました。
HPにある通りの先生でした。
(最近はFBもプラスされたので、さらに『ウェルカム 本気咬み』が前面に押し出されていますね!)
ワンボックスカーが見えなくなるまで見送って、大泣きして玄関に入った瞬間、ものすごく肩の辺りが軽くなったのを覚えています。
コロが行ってしまった悲しみ・寂しさよりも、ずっとずっと気持ちが楽になった方が強かったのです。
「とりあえず、もう咬まれない。当分の間は。」
咬まれる痛さよりも、その状況を作り出してしまう自分たちが嫌でした。
飼い主も近隣の訓練士さん達も匙を投げた犬を、遠くに住む訓練士さんがノリノリでお迎えに来て
「治すようにこちらで、できる限りのことをします。どうしても治らなければ養子にします。ですから、飼い主さん達はひとまずゆっくりして疲れを癒してください。」
なんて言って嬉しそうに帰って行かれたのです。衝撃的でした。
皆が嫌がった仕事をこの上もなく嬉しそうに引き受けて下さるなんて!
それが、私たちと中村先生の初めての出会いでした。