EP Ⅱ:今までは何だったの?〜柴犬コロさんのオーナー様手記〜

この手記は10件の専門家にたらい回しにされ、北栃木に辿り着いた柴犬コロさんのオーナー様が卒業に際して記したものである。原文をそのまま転記しています。ねつ造無しのオーナー様の声をご覧ください。

中村

コロが行ってしまってから、我が家は火が消えたように静かになりました。
行ってしまうまでの二日間は、すっかり私たちは情緒不安定になり、普通に過ごしているコロを見ては「うううっ」となっていました。 

コロが先生と一緒に訓練に出かけたのが、3歳と半年の時です。

初めて咬まれたのが生後半年辺りだったので、約3年間「もしかしたら咬まれるかも」という状態で過ごしていました。

咬まれた怪我の様子は、とても徐々にですがエスカレートしていて、病院で縫って頂くことも数回。

そして、多くの場合は「コロが何故咬んできたのか?」ということがわからず、それが何人も「トレーナーさん巡り」の一因でもありました。

とりあえず、いとも簡単に刃向われずもせず、コロを車に乗せ意気揚々と帰路につかれた中村先生のおかげで、当面の間、咬まれることはなくなりました。

この時の静けさ、安堵感と言ったら!

コロがいないとさぞさびしいだろう、と思っていたのですが、実はこの「安堵感」の方がずっと大きかったのです。

訓練が終わればコロは帰ってくるのですから、まずは心身を休めました。 

「はじめて会った人に、愛犬を預けてしまうなんて!」と思われる方もいらっしゃると思います。

以前の私たちなら、同じように思ったかもしれません。

でも、中村先生が我が家にいらした時に、「この方なら大丈夫だ。安心してお願いできる。」と何の疑いもなく思いました。10数名のトレーナーさんと関わってきましたので、その辺りの目もいつの間にか肥えたのかもしれません。それに「犬」ということを抜きにしても、中村先生は信頼するに値する方だと思いました。
そうして心に余裕が生まれてくると、今度は「罪悪感」が湧き上がってきました。

専門家といえども、飼い主が制御不可能になって犬を押し付けてしまって、のうのうと過ごしていていいのか。

「コロがどうして咬むのか」という原因を探していた日々に(原因がわかれば、自分たちで解決できると思いました)お世話になった「スピリチュアル・カウンセラー」の方がおっしゃった「コロの今回のテーマ」というのも気になっていました。

コロの前世も犬で、「前世では飼い主さんが途中で亡くなってしまったので、今回の犬生では最後までちゃんと飼ってくれる人を求めている」という診断だったので、「もしかしたら、コロが『また飼い主がいなくなってしまった』と思っていたら、どうしよう」と思っていました。

今思えば、そんなに大好きというわけではないのに、頭の中まで「ウォルト・ディズニー」でした(笑)

こうした間も、先生に2週間に一度くらいのペースでメールして、コロの様子を聞いたり、コロの今までトレーニング歴などをお伝えしていました。

そうして数か月の後、ようやく大田原市の訓練所に面会に行けることになりました。

前日はほとんど眠れず、予定時間よりもずっと早く家を出て、東北新幹線に乗りました。

とても緊張していました。

「コロが『僕のおうちはここじゃないよ!僕を連れて帰って!』なんて言ったら、どうしよう」

今思えば(←二回目)、あれだけ読んだ犬に関する本からの知識はどこに行ったんだ、という狼狽えぶりでした。

訓練所に無事に到着し、前にいたお弟子さんが辞められて一人で何もかもこなされていた中村先生の激やせぶりにびっくりしつつも、コロとご対面しました。

私が恐れていたような「連れて帰って!」は全くなく、コロはちょっとぼんやりした表情で私たちを見ていました。

先生曰く「ちょうど今は、今までのようなやり方が通用しないので、どうしたものか、と思っているような時期です」とのこと。

そして、離れている間に犬とご無沙汰だった私たちは、すっかり犬に対して恐怖心を感じ るようになっていました。

「コロ!会いたかったよ~。」なんて言って触れるような余裕もなく、ちょっと距離感を持ってコロをただ見ていました。

先生は「お散歩でも行ってきますか?」とご提案下さったのですが、そんな余裕は1ミリもなく、ひたすらコロを眺めていました。

コロの表情はぼんやりしているものの、毛並みはピカピカ、しかもすっかりスリムになっていました。

3歳半年にしてメタボ犬まっしぐらだったとは思えません!

お互いにちょっと遠巻きに眺めて、先生に訓練所でのコロがどんな風に過ごしているかなどなどを伺って、コロは私たちを見送って「さて、一仕事終わりましたね」という風情ですたこら去って行きました。

帰りの新幹線の中では、「自分の犬が怖いなんて、飼い主失格なんじゃないだろうか・・・」と落ち込みもしたのですが、あのにっちもさっちもいかなった断崖絶壁の緊急事態は終わったのです。

あの真っ暗で落ちていくだけの辛さを考えたら、今度はちゃんと指導して下さる先生もいらっしゃるのです。

次回はコロとのレッスンが待っているので、ベストを尽くそうと思いました。

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